star_of_bba’s diary

甲状腺、卵巣と立て続けに手術したのち遊び歩いてます。

家づくり記録(45)引き渡し

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【前回までのあらすじ】
引き渡し直前の完成検査で設備が注文と違ってることが分かった

家づくり記録(44)完成検査 - star_of_bba’s diary


建物を引き渡される直前の検査で図面と違う設備が付いてることに気付いた私たち。対応します、というシゼンさんの言葉だけを頼りに引き渡し当日を迎えた。

朝早くに現地へ向かいながら夫とどうなったかなぁと話す。引越しまではもう少し時間があるし、まぁ今日できていなくてもそれまでに頑張ってもらうしかないよねと結論付け、最寄りのバス停に降り立った。こうやって通うのも最後かと思いながら少しの間黙ったまま歩く。思ったより感動しない。ギリギリまでこんなにバタバタしていたらそりゃぁそうか。

この角を曲がれば家が見える、というタイミングで夫が今工事してたりして。と呟いた。いやいやいや、まさかそんな…


家の前にトラックが停まってる。こんな日に。トラック。ねぇ……あれ………と私。黙ったままトラックを見つめる夫。トラックと私たちの距離はどんどん縮まっていく。

『まさか』が現実になっていた。近づくまで見えなかったトラックの荷台に、先週私が「違います」と言った設備と建具が雑に積み上げられていた。私たちが着くのと入れ違いにトラックは走り去った。ピカピカの新品だった製品が…使われないままあんなところに…頭の中でドナドナが鳴り響く。

切ない気持ちを抱えながら振り返ると家の中からシゼンさんがあっおはようございます〜!と出てきた。後から続いたのは社長と

「どうも、検査の時はすみませんでした。」ユージさんだった。…不幸があったのは本当だったのか。

そしてもう1人、見知らぬ顔のおじさんが佇んでいる。社長が「いやぁなんとか今日交換できました!こちら、設備関係をお願いしているスイドー社のオフロさんです。オフロさんがスピーディに対応してくださったんですよ〜。」とおじさんのことを持ち上げながら紹介してくれた。そうだったんですか、と答えてオフロさんにお礼を言った。

社長はハキハキと高めのテンションで続ける。「ベランダの工事も今日終わります!シゼンがですね、なんとかしようと一生懸命今日のうちに工事できる業者を探して来たんです。工事に必要な部材も先ほどシゼンと私とで運び終わりました!」

そうか。いろんな心配ごとがあったけど、どれも解決してくれたんだ。連絡がなかったのは不安だったけど、この日のために帆走してくれていたんだ。そうか…。感謝の気持ちとともに、完成の喜びがじわじわと胸の中に広がっていく。

シゼンさんが少々お待ちください、と言っていそいそと支度を始める。引き渡しはちょっとしたイベントにしてくださるようだ。玄関ドアの前にポールが2本立てられ、その間に紅白のテープが張られた。

準備が整った。シゼンさんがこちらを…と言って金色のハサミを手渡してくれた。すごい。ピッカピカだ。こんなのどこで売ってるんだろう。夫と2人でハサミを持ち、テープを切るふりで一時停止してしばし撮影会となった。シゼンさんが私のスマホやシゼンさんのスマホをくるくると持ち替えて数回ずつパチリ。さらにユージさんも自分のスマホでパシャリ。

ひとしきり撮ってからそれでは…と気持ちを改めて夫と一緒にハサミを握った。少し手こずったが、夫が上手いことテープを全て切ってくれた。あぁ。とうとうここまで来た。最後の最後まで色々あったけど結果オーライ、終わりよければすべてよし、オールグリーンだ。良かった。本当に良かった。

ナチュラル社の皆さんに拍手され、嬉しさと実感がさらに胸へ染みわたっていく。少しだけかしこまった表情でシゼンさんが口を開いた。「えー、それではここで…」

「施主さん、ちょっといいですか?」

道路の方から声が聞こえた。全員で声の方を向く。そこに立っていたのは、以前ユージさんと喧嘩したご近所さんだった。すかさずシゼンさんがどうなさいました?と道路の方へ駆け寄る。

「おれは施主さんに話しかけてんだよ。」ご近所さんはシゼンさんに向かって乱暴に言い放ち、私たちの方へ向き直った。「いやね、屋根のところにね、滑り止め付けてほしくてさ」

屋根の滑り止めは家の仕様を決めた時、セッケイさんに勧められてつけた部材だった。今日家を引き渡すということはつまり外側は全て完成した状態で、屋根に上るために必要な足場と呼ばれる鉄筋の枠組みはとっくに撤去されている。滑り止めは屋根に上らないと付けることができない。今更何を言い出すんだろうこの人は。

シゼンさんが口を挟んだ。「それについては以前も付いていますとご説明しましたよね?」

「してねぇよ。」とご近所(敬称略)。

「しました」「してない」としばらく言い合った後、近所()が急に声を荒げて言った。

「どうすんだよこんな時にこんなジジィが出て来ちまってよう!!てめえらが全然連絡してこないせいでよう!!!」

いやいや、このタイミングを選んで出て来たのは完全におまえの意志であって、ナチュラル社は全く関係ないのでは…?

DV男あるある『俺を怒らせたお前が悪い』理論を目の前で聞かされて唖然としていると、黙ってやりとりを聞いていた夫がおもむろに口を開いた。

「最初から付けてもらうように発注してますけど…」

あっそうなのそれならいいんだときんじょ()が急にトーンダウンしたところですかさず社長がシゼンさんに念のためもう一度確認しなさい、と指示を出した。それからきんじ()に向かってご心配いただきどうもありがとうございます、と有無を言わせない迫力でお礼を言い、まだ何か言いたそうだったきん()をシゼンさんに任せ、我々を家の中へと誘導してくれた。リビングへ入るとニコニコした社長がいやぁあの方とはシゼンがすごく仲良くなったって言ってたんですけどねぇ、ぜんぜんでしたねぇブフフと心底おもしろがっている顔で私たちに話しかけてきた。やり手だ。この社長はやり手だ。

シゼンさんが戻ってくるまでの間にオフロさんから水回りの設備の使い方や手入れの仕方を教わった。どれもまぁ、特別なことは無さそうだ。続けてユージさんから設備の説明書の受け取りや構造計算の報告書、建築許可証などなど書類の説明を受ける。設備の説明書がまとめられたファイルはまるで焼いたお持ちのようにぼてっと膨らんでいて、書類も分厚いファイルにひとまとめにされていた。受け取るものの多さに気持ちが一気に仕事モードになる。受け取った書類を確かめ、受領書にサインを書いた。

き()に解放されたシゼんさんが戻ってきた。気を取り直してセレモニー再開だ。シゼンさんが口を開く。

「お2人とはsuumoカウンターの紹介でお会いし、およそ1年、家づくりをご一緒させていただきました。ここまでお2人の大事な時間に携わらせていただけて本当に良かったです。ありがとうございました。」

拍手とこちらこそありがとうの意味を込めてシゼンさんにお辞儀を返す。続けて社長からのお祝いの言葉。「僕は現場が大好きで、こちらのお宅にも何度もお邪魔させてもらってユージに職人の邪魔だと怒られたのですが」という言葉にえっ来てたの?!と内心びっくりしたが大人なので顔には出さなかった。

社長からのお祝いの言葉を聞いていると視界の端でシゼンさんとユージさんがこそこそと奥に引っ込んだのが見えた。社長の話が終わったタイミングでシゼンさんとユージさんがそれぞれ何かを手に戻ってきた。お祝いのお花と、これまでの節目節目にシゼンさんが撮ってくれた写真を集めて作ったパネルだった。思わずわぁと声が出る。嬉しい。何度もお礼を言った。

嬉しい驚きの余韻を味わっている中、シゼンさんに促されて夫が話しだした。

「やっと見つけた土地が売れてしまったり、この1年色々なことがありましたがこんなにかわいい家を作っていただき、大変うれしく思っています。本当にありがとうございました。」

話している夫を見つめていたらこれまでのことが次々と思い出された。


最初のきっかけは1冊の漫画と夫の一言だった。夫が欲しいと言った、夫の『居てもいい場所』を作る。そのためだけに動き出した。

右も左も分からない中で都内に自分たちでも買えそうな土地を見つけた。端っこでも都内は都内だ。自分が東京に家を持つなんて。有頂天になった。

私のだらしない過去のせいで夢が途絶えた。それでも夫は諦めなかった。現実を見つめ、やりたいこととできることを結び付けた。夫の話を聞いて一緒に考えているうちに、いつの間にか夫のためにと考えていた家づくりは、2人の目標になっていた。

新しい居住エリアを求めて暑い日も寒い日も知らない電車に乗って知らない土地へ出かけた。毎週末、足が棒のようになった。ようやく2人で気に入るエリアが見つかった後も土地を探すために汗だくで同じ地域を何度も歩いた。

生まれて初めて営業マンに営業をかけられた。色んな出会いと別れを経て、ナチュラル社のシゼンさんとご縁を繋ぐことができた。

ようやく見つけた土地が売れてしまい、私たち以上にシゼンさんががっかりしたこともあった。結局、最初の土地よりもバランスの良い土地が見つかり、ナチュラル社と契約を結んでお願いすることが決まった。

信頼していたセッケイさんがナチュラル社を去ってしまった。工事が始まってから設計上の問題が何度か起こり、セッケイさんの不在を心細く思ったこともあったが、優しくて仕事の丁寧な棟梁が居てくれたおかげでなんとか乗り越えることができた。



新型コロナウィルスという世界中が経験したことのないような混乱に陥ったり、ローンの契約に不測の事態が起こったり。本当に、本当に色々あった。長いような短いような、でもやっぱり長い1年間だった。がんばったな。私も夫も。ぼんやりと物思いにふける私の方に、ふと夫が顔を向けた。私を見つめたままで言葉を続ける。

「これからも仲良くこの家で暮らしていきます。今後ともよろしくお願いいたします。」


そうだ。これで終わりじゃない。ここからがスタートだ。2人で暮らしていく。一緒に作り上げたこの『居場所』で。



(もう1回だけ続きます。)


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家づくり記録 目次① (1)~(10)1度目の検討 - star_of_bba’s diary
 家を作ろうと決めたきっかけから家づくりを1度諦めるまで。

家づくり記録 目次② (11)~(23)建築会社決定 - star_of_bba’s diary
 1度諦めた家づくりに再トライして建ててもらう会社を決めるまで。

家づくり記録 目次③ (24)~(32) 建築開始 - star_of_bba’s diary
 家を建ててもらう会社が決まり、土地の購入から建築工事の開始まで。

家づくり記録 目次④ (33)~ 完成 - star_of_bba’s diary
 工事の始まりから完成まで。