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病院から指定された時間にまた仕事を抜け出して電話をかける。二〜三分保留されてから電話に出た年嵩の男性の声が主治医の尾田です、と名乗った。初めまして、お世話になっていますと挨拶もそこそこにお父さんね、と父親の病状の説明が始まった。
九年前にかかった食道がんが年始、首の付け根あたりに再発したこと
放射線治療で一度は小さくなったが、この夏再び大きくなってきてしまい、気管に影響を及ぼしていること
本人が息苦しさを訴えていて、ものを飲み込む力も弱くなっているので気管切開したこと
抗がん剤を投与したがあまり効果がなく、飲み込む力が戻らないので経口で栄養を摂取できないこと
栄養を摂るため静脈に点滴を繋げるポートと呼ばれる機械の埋め込みを検討していること
切開した気管に取り付けている器具は二週間ごとに交換が必要なこと
抗がん剤の治療も一ヶ月に一度必要なこと
これらを説明されてから、だから抗がん剤の投与と器具の交換を一度にまとめたとしても二週間ごとに通院が必要なんだけど、来られる?と聞かれた。
この件については少し前に阿部さんと井田さんからも説明があった。入所する施設は通院に家族の付き添いが必ず必要となる。さすがに毎月二回は休めないと相談した結果、二回ある器具の交換のうち、一回は施設が契約している訪問医にお願いすることにしていた。残りの一回と抗がん剤投与をまとめて通院で受ける算段だ。
尾田医師にそのことなんですけど、と希望を伝える。あぁ。訪問医の先生もできるのね。それなら月一回の通院で良いですよ。と了承してもらえた。少しほっとした。
お父さん、食べられないなら生きている意味がないって言ってるらしくてね。希望を捨てないでほしいから、通院するときにあわせてリハビリも受けられるように予約するからね。と尾田医師は付け加えた。この話も阿部さんから聞いていた。はい、お願いしますと答える。
抗がん剤が効いて癌が小さくなればまた飲み込みもできるようになるかもしれないしね。食べられないときは胃ろうという手段もあるんだけど、お父さんは食道を切って胃を胸の方に引き上げてるから使えない方法なんだよ。
それではよろしくお願いします、と電話を切る間際、尾田医師がとってつけたような希望と、私がさんざん調べてなぜやらないのか疑問に思ったことへの回答を与えてくれた。そうなんですね。なぜだろうと思っていたんです。食道を切った人は胃ろうができないんですね。感心しながら通話を終わらせた。どっと疲れた。
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