star_of_bba’s diary

甲状腺、卵巣と立て続けに手術したのち遊び歩いてます。

父を送る(13) 退院日が決まる

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尾田医師からの説明を受けて数日後、父親が退院後に入所する施設の井田さんから電話をもらった。退院日が三週間後に決まりそうだという連絡だった。いよいよ自治体から届いているはずの書類が必要になる。井田さんから説明を受けた後も父親から頼まれた用事をこなすために何度か実家に行ったが、書留の不在票などは入っていなかった。井田さんにその話をしようとしたところ、井田さんの方でも調べていて下さったそうで、阿部さんを通して父親に確認したところ、父親が入院前に郵便を局留めにして配達を停止する手続きをしていたことが判明した。どうりで実家に寄ってもポストの中身がそれほど溜まっていないわけだ。きっちりしている父らしいとは思ったが、さて困った。父親は、その書類を受け取ったり、他に郵便局留めされている郵便物を確認するためにも、退院したら入所する前に一度家に帰らなくてはいけないと主張しているらしい。
もう手術は終わって気管は切開されている状態だ。長時間、医療ケアの無い状態で過ごせるとは思えない。痰を吸引するようなケアを、私がやってあげられる自信なんて全くない。井田さんも、お二人で長時間過ごすのは心配ですよね…。と私の気持ちを察してくれた。はい、そうなんです…と答えてから少し考えて、私のほうで郵便局に問い合わせてみます、と井田さんに伝えた。井田さんからもそうですね、その方が良いと思いますと言われ、覚悟が決まった私は井田さんにお礼を言って電話を切った。

夕方になって父親から電話が来た。退院が決まったけど書類が必要だから一度家に帰らなくちゃいけないんだよ、と言う。この頃には父親の声はしっかりしていて、聞き取れないことはほとんど無くなっていた。それなんだけど、私の方で郵便局に聞いてみるよ。それで受け取れたら病院に持って行くから。と説明すると父親におまえが?郵便局に聞くの?と何度か確認された。うん、うん、と答え続けると父親はそう、じゃぁやってみてよ。無駄だと思うけど。と言ってからそれじゃまた、と電話を切った。父親のためにあれやこれやと考えて動いている人になんて言いぐさだろうと腹が立った。

翌日、早速実家の最寄りの郵便局に電話をかけた。今入院中の家族が局留めにしている郵便物について、自治体から書留で送られている介護保険の書類だけでも代理で受け取れないか、と相談した。最初に電話に出た担当者からは、解除の手続きをすれば郵送できるが、それでも本人が来ないと手続きができないので…と言われたが、本人が入院中で、そのまま施設に入る予定なのでとさらに詳しい事情を打ち明ける。そういうご事情ですか。うーん…。担当者は少し迷ってから、私の一存ではなんとも判断できかねるので、一度上司に相談させてください。と言って折り返しの連絡を待つことになった。

翌日の昼休み、郵便局からの着信が残っていたことに気付き折り返し連絡する。上司の方が今回はご事情がおありなので、ご家族が身分証明書を持って窓口に来てくださればお渡しいたします。と言ってくれた。ほっとして何度もお礼を言って電話を切った。

退勤して電話を見ると父親からの着信が残っていた。すぐに折り返して郵便局の人が私が窓口に行けば書類を渡してくれるって、だから取りに行ってくるね、と伝えると父親はあぁそう、と答えた。それからすぐに、施設の井田さんに詳しい説明を聞くことにしたから、と言い始めた。説明?説明ってなに?入院前に阿部さんから聞いたよね?驚いて問い詰めると、いやでも費用のこととかちゃんと聞かないといけないから。場合によっては断らないといけないな。と続ける。

全身の力が抜けた。施設に行かないで、一人で、どうするの…?と絞り出す。父親は吐き捨てるように妹に面倒見てもらう!と言ってじゃぁそういうことだから、と電話が切れた。何か気に入らないことがあって全部滅茶苦茶にしてやる時の声だ。ここに来て何を言い出すのか。どこまで私はこの人に振り回されなくちゃいけないんだろう。失望感に打ちのめされた。


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