star_of_bba’s diary

甲状腺、卵巣と立て続けに手術したのち遊び歩いてます。

父を送る(29) お通夜

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土日の休みが明けて、お通夜当日になった。いよいよだ。父親の元にいってお父さん、出発だよ、と声をかけた。葬儀屋さんの車に乗せてもらって夫と二人、系列のレンタルショップまで運んでもらった。お店の人に声を掛けて名乗り、それぞれ良さそうなものを試着する。二人ともすんなり決まった。いろんなタイプが試着できたので、買う前にイメージをつかめてレンタルするのは良かったかもしれないと思った。

葬儀屋さんから段取りを組んだ際に言われた通り、レンタルショップを出て、向かいにある系列の葬儀場に入り送迎の手配をお願いした。数分で送迎車が来てあっというまに会場まで連れて行ってくれた。大変便利だった。

会場はもう飾り付けが終わっていた。遺影も良い感じで飾られていたし、最後まで何台置くか悩んだ花輪もちょうど良いバランスだった。父親は祭壇の前に棺に入って寝かされていた。祭壇には家でよそった米と団子が供えられていた。ここまで団子を使われるとは想定外であまりの不格好さに恥ずかしくなってしまった。会場の様子を見に来てくれたスタッフさんに、ご立派な祭壇ですねと言ってもらったが、でもお団子がぜんぜんうまく丸められなくて不格好で…と恥ずかしがって見せたらみなさん不慣れですからそんなもんですよ、と不格好を前提に慰められた。そんなことないですよとは言ってもらえなかった。

斎場の中をあちこちうろうろしていたら担当の長野です。と女性の方が挨拶に来てくれた。じきにご住職がいらっしゃいますので、ご住職がお部屋に入られたらお声がけしますからご挨拶をお願いします。と言われ、それまで控室で待機することになった。 さっそく喪服に着替えてお茶を飲んだりスマホを見たりとだらだら過ごしていたらそれほど待たずにご住職がいらっしゃいました、と声がかかった。いそいそ立ってご住職の控室に入る。今日はよろしくお願いいたします。と挨拶を交わした。ご住職が戒名の入ったお位牌を見せてくれた。釣りがお好きということで海の字を入れました。それから、食べ物に困らないようにということで摂取の摂、です。摂取と言うのも実は仏教のことばで誰のことも取りこぼさず救う、という意味があるんですよと教えてくれた。とても良い戒名だと思った。

お通夜が始まる頃には叔母と、父親がかわいがっていた叔母の娘と息子たちがきてくれた。受付などの段取りを確かめながら開始を待つ。OB会の方々が来て下さった。会長さんを見つけてお礼を伝える。会場を見て回っていたOBの皆さんが父親の位牌で戒名を読み上げて良い戒名だな、いいなぁ…と口々に言った。父親の同世代だからこういう場ではもう自分のときのことに思いを馳せたりするのだろう。いただいた戒名をうらやましがられている様子で、ちょっとだけ自慢げな気持ちになった。

定刻通りお通夜が始まった。お経が進むとなんとなく身体が楽になるような感じがした。亡くなってからこの日までおよそ三日間、まだこの世の色んなことに気を揉んでいた父親が、お経をあげられて自分の立場を自覚したような、ひとつ上の世界に上がったような気持ちになった。自分の悲しみと父親の嘆きに押し潰されそうでうずくまっていた心の中の自分がやっと立ち上がれたようだった。

滞りなくお通夜は閉会した。親族以外で参列してくださったのはOB会の方々だけだった。こじんまりとしたかったのでちょうど良かった。このご時世なので、という立て付けで通夜ぶるまいは無しにしていた。司会までこなした長野さんが閉会のあいさつとあわせて上手に案内してくれた。帰り際、OB会の方たちに父親との思い出を教えてもらった。将棋で勝負したりしてたんだけどさ、負けるとえらい悔しがってねぇ、なんて話を聞いたり、OB会で行った釣りの写真をわざわざラミネート加工して持ってきてくださった方もいた。ありがたいことばかりだった。皆さん三種類から選べる香典返しを選んで受け取り、ゆっくりと帰って行かれた。 叔母やいとこ達も一旦帰宅した。ありがとう、また明日と言って別れ、夫と二人になった。すっかり元気を取り戻した私はお腹が減った、と言った。あれ、顔色良くなったねと夫も気付いてうん、落ち着いた。もう大丈夫と答えた。長野さんが今は電気のおかげで明るくて仏さんが迷われるようなことはないですから、と言うもっともらしい理屈に寄りかかって、父親にはとりあえず長時間持つ長いお線香をあげてからご飯を食べに外へ出た。斎場の周辺には何もないので駅前までぶらぶらと歩く。どこがいいかなぁと街中をうろうろしていて、ふと二人同時に目に留まった中華料理屋さんへ入った。これが大当たりで、どれもおいしくてボリュームたっぷりだった。二人同時にピンとくる店なんて良いに決まってるよねぇと自分たちの勘の良さを大いにたたえながらおいしく食べた。中華料理も父親の好物だった。ずっと食べられなかったから食べたいものエンジョイしてるなぁお父さん、と思った。

斎場に戻って、長野さんの言葉があったので夜も普通に寝た。久しぶりにぐっすり眠ることができた。

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